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北北西に進路を取れ('59 MGM)アルフレッド・ヒッチコック

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最初から最後まで当たり前のように面白い。脚本のアーネスト・リーマンのコメンタリーが特典で、すぐにそっちで二回目を見た。実はこの映画は考えてみるとおかしくないか?っていう設定がいくらでもある。本当にいくらでもある。でも全然面白い。それを今度みんなで話し合いたい。今年はヒッチコックを全作品みるぞ。

主な関係者がご存命ということに驚いたが、コメンタリーのリーマンも2004年に亡くなっていた。キャストの中では、ヒロインのエヴァ・メリー・セイントは生きている。ヒロインっていうのは撮影時点で若いから、たいてい最後まで生きていますね。一番映画を語りたくなさそうなひとが最後に生き証人になってしまう。でも観客としてはまだヒロインの女優が生きているってのはうれしいもんです。小津映画とか溝口映画とかでも、戦後のヒロインは意外とほとんど生きている。いつも俺は自分の祖母と比較するんだけど、そうすると祖母の生まれ年の1920年をさかいにそれより若ければ、そりゃ生きてるってこともあるか、と思う。ちなみに1920年生まれは日本でいうと原節子と同じ年。

エヴァ・マリー・セイントは1924年生まれなので、生きていてもおかしくないかというお年。撮影時には若いとはいえ35歳。ハリウッド女優ってのは昔も今も年齢不詳だな。クローズ・アップになるとあからさまにソフト・フォーカスなのは実は若くない、という事情かもしれないが、この映画での彼女は、すっごくいいです!最高。当時結婚してなければキャスティングされていたであろうと言われるグレース・ケリーよりも地味だけど、ちょっときつめできれいです。クールビューティー。

コメンタリーではかなりいろんなことがわかった。以下に感想含めて箇条書き。

1. 脚本を書いていた当時ヒッチコックはめまいを撮影中だった。
そういえばめまいサイコの間の作品である。このあたりの傑作ばかりとっているな。ヒッチコックはこの映画を意図的にアメリカ時代の総決算として位置づけていたとのことだけど、なるほどその後、60年代以降ちょっと変わる。

2. ヒッチコックは脚本時点で一度「撮影」をしている
リーマンはほとんど共同脚本家で、ほとんどのプロットを考えているけど、ヒッチコックはその執筆にリアルタイムで関わり、撮影のイメージを固めている(リーマン曰く「紙上で撮影している」)。だから、無駄なショットをとってフィルムを浪費したりはしないとのこと。トリュフォーとの対談でヒッチコックはこの映画には意図しないショットなどひとつもない、といっている。

3. マーティン・ランドーのキャラクターと同性愛
当時は触れられることがなかった同性愛的な部分がマーティン・ランドー演じるキャラクターに見えるらしいと、脚本家は後世に学生から指摘されたとのこと。まあ同性愛うんぬんはどうでもよくて、問題はこの悪党の右腕を演じるマーティン・ランドーなんですが、ウディ・アレンの重罪と軽罪で人を殺しといて悩むあの目医者さん(そうあいつ)でした!すげー。確かにそうだ。若い。言われなきゃ気づきません。この映画での最大の発見。

4. 俯瞰ショット
注意してるとヒッチコックはほとんど直感でキャメラを天井近くまで上げることがある。ってことをリーマンが指摘している。たしかにそうだなあ。確実にヒッチコックっぽくなってる。なんでそこでそうするの?っていう理由はわからない。直感なので。

5. ケイリー・グラントと007
この映画は007シリーズが出て一時は霞んでしまっていて、その後に再度よみがえって映画史に残る傑作として認知されるようになったと指摘している。なるほど。スパイものとしては007よりは地味だったということだろう。ちなみにケイリー・グラントは当時55才。けっこういってるよな。この数年後に年齢を理由にジェームス・ボンド役のオファーを断ったことがある。もともとはイギリス出身らしい。まるっきりアメリカ人にしか見えないけど。

6. ロケーション
この映画での感動のロケーションは、N.Y.マディソン通り、国連ビル外観(隠し撮りしたらしい)、N.Y.セントラル駅、プラザ・ホテル内観。どこがロケーションでどこがセットかは、コメンタリーで教えてくれるとうれしい。そしてロケーションだとうれしい。

7. ラシュモア山
クライマックスはラシュモア山のアクションだけど、これそんなに面白いか?まあエンディングは最高だけど。とはいえ、この映画はそもそも「ラシュモア山でのアクション」というアイディア一発で、どうやってそこまで行くのか、ということがすべての発端らしい。ラシュモア山頂の設定は架空のもの。あの敵が住んでいるフランク・ロイド・ライトって感じの山荘は最高。俺はあの中に住みたい。

これ↓
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8. トウモロコシ畑
北北西に進路を取れといえばあのシーン、つまり畑でグラントが飛行機に追いかけられているシーンだけど、これはリーマンが考えたシーンで、ヒッチコックとのおしゃべりから拾っていて、ヒッチコックのアイディアは、何も無い場所に男が一人だけいるシーンをいつか撮りたい、というもの。まあこのシーンはすごいです。無の状態から、演出だけではらはらさせるお手本。本当にお手本にしたらすぐ真似してるってばれるけど。

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