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最高殊勲夫人('59大映)増村保造

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なんと前のめりな映画だろう。これを見たら、日本の50年代というのはこういう勢いで突き進んでいた時代だっただろう、といま見る世代が思い込んでしまっても無理は無いだろ。当時の増村保造が異常な演出・編集をしたのか、実際どういう時代だったのかはもうわからないけど。

当時の東京のサラリーマン社会を背景に、自由な恋愛による結婚をしたいはずの男女が、押し付けられた相手に恋をしてしまい、最終的にはそれを素直に認めて結婚するコメディ。会社の屋上で昼休みを過ごすシーンをロケでとっていて、眼下に広がるのは東京駅とその周辺で、東京駅そのものよりも高い建物がほとんど見当たらない、空の広い風景にまず見とれてしまう。

この当時の映画をカラーで見るとロケーションがやたらと気になってしまうけれど、それは世界中どこのひとでも一緒で、ロンドンに生まれ育った人はたとえばヒッチコックの『知りすぎていた男』('56)で「ジェームズ・スチュアートが見慣れたカムデンの街を歩いているのを見て目が釘付けに」なるらしい。

というようなことをいつまでも言っていてもしょうがないけれど、この感動というのは他に変えがたい映画のロケーションならではの魅力だというのもまた事実で、とはいえどこにも向かっていかないので、今回はここでやめようとおもう。風俗的な古さはギャグを中心とした会話にも(残念ながらマイナス方向に)表れている。さすがに喜劇は悲劇よりも古びやすいとはいえ、そこは意図的に無視しつつ、前のめりな展開を楽しむ。楽しめる。

俺がこの映画を最初に見たのは10年も前で、かなり好きだった気がするんだけど、DVDで見るとカラー(この映画カラーなんです)の「総天然色」っぽさが薄れてしまい、そのせいかテンションが落ちてちょっと拍子抜けだった。60年代以降は二人の影が薄れて若尾文子ばかりが生き残っていくのだけど、そちらの傑作群に移る前のまさにお昼休み的な作品ですね。まあ若かりし若尾文子は既に完成形だし、この当時の増村作品でなんといってもいい川口(探検隊)浩と船越(栄一郎の父)英二が見られるのでできれば見てほしいぜ。