インビジブル・ウェーブ ('06タイ) ペンエーグ・ラッタナルアーン
前作『地球で最後のふたり』で浅野忠信をタイ在住の日本人公務員でありながら静かに破滅的なことをやる、というナイスな設定に持ち込み、さらに撮影監督クリストファー・ドイルがそれを支える、というすばらしい映画を作ったタイの監督ペンエーグ・ラッタナルアーン。
この新作にはひそかに世界中の期待が大きかったと思います。
今回は香港~タイを舞台となった。香港在住の日本人のコック(浅野忠信)がボスの妻と不倫、やがてそれがばれてボスからその女を殺すように指示される。それを実行した浅野はボスの指示でタイに渡るが、幽霊のようになってしまっている。
映画館の中で雑誌の特集を読んで、これはなかなか魅力的な設定と思った。
冒頭ではソファに座って対峙する2人の男を足から上に移動していき、やがて片方がピストルを持っていることがわかる。そのピストルに焦点があったりあわなかったりで、さらにピストルを持っている男が浅野忠信じゃないの、というニヤニヤする始まり方である。
そして愛人の女と浅野忠信の情事、食事、殺害、切り刻むという流れ(最後は映像にはなっていないのでご安心を)です。このあと死体が腐って悪臭がする、というのがさりげなく出てくるんですが、この監督はこういう臭いのを毎回ちょっとだけ入れます。
いつもたいした場面じゃないのに臭いの入れてくる。たしか前々作も臭い始まり方してたはず。
その情事の場面あたりまでは、ウォン・カーワイの、そう『天使の涙』(題名書いてるだけで涙ものですね)のクリストファー・ドイルを彷彿とさせる広角画面で手前にガラスのコップがあったりします。
ああ俺、こういうのにあこがれて広角レンズで写真撮ったりしたなあ、などと悦に入って、わくわくしていたのですが、その後浅野がボスからタイにいくように指示されて、船に乗って奇妙な目にあうあたりからどうやら期待していたグルーヴが生まれそうで生まれないな、ということに気づきだします。
その後もなんかすごくきれいな映像とかあるんだけど、まったくそれが映画のグルーヴにつながらない。なんか知らないが撮影監督のクリストファー・ドイルに過剰にイニシアチブ握られてたんじゃないかこれ。
気もそぞろになるんだけど、浅野忠信の英語がまたダメだなあ。浅野は日本語でこそ生きるんだなあ。全体的にせりふが妙にかっこつけててダメですね。ていうかこの脚本、とくにせりふまわしはどうなんだろう?ひどい可能性もある。
船がタイについてからもけっこうダルい感じですすみ、というかストーリーは激しく、実はボスは浅野を殺す気だった、というまあまあありがちなサスペンスになります。
いろいろあって香港に戻ってボスのところに復讐しに行くんですが、タイよりもいいですね。香港は、さすがに映画の町です。その高低差、この映画は高低差けっこううまく使ってるんですが、香港は高低差そのものの都市です。
香港の夜景の名所、香港島のヴィクトリア・ピークに登る途中の高級住宅街にボスの家がある設定なんだけど、ボスに復讐するためにそこまでケーブルカーに乗ってゆく。
結局殺せなくて、そのケーブルカーの停留所で最後に殺し屋と浅野が降りるんですが、その停留所を俺は多分個人的に知っているので、懐かしい感じがしました。
この監督にはまだ次回作に期待してますよ。
「え、なんで?」 (浅野忠信)