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泣く子も黙る演出家、ルキノ・ヴィスコンティが死ぬ前に撮った

『イノセント』('76/イタリア)ルキノ・ヴィスコンティ

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ルキノ・ヴィスコンティの、遺作。泣く子も黙る演出家ヴィスコンティの鬼演出で、映画史上に残る、泣く子も黙らす我儘男(その名もトゥーリオ)を演じるのはイタリア男のジャンカルロ・ジャンニーニ。その愛人はジェニファー・(アメリカ人?)・オニール、その妻はラウラ・アントネッリというイタリア人の女優が演じる。

冒頭の演奏会のシーンで、ほとんど目線だけで三人の感情が入り乱れつつ、それぞれのキャラが紹介されるところ、ここは、その夜トゥーリオと愛人が二人で諍いをする部屋のシーンで、トゥーリオの顔にズームするすごいシーンに集約されてゆくんだけど、その演出たるや、字幕を読んでる暇を与えません。ちなみにこのズーム、ヴィスコンティは映画のことなどちっとも恐れずに、やりたい演出できるひとなんだってことが伝わってきます。

トゥーリオは、自分がいかに愛人に心を奪われているかを、あろうことか、妻に説明し、その恋心ゆえの苦しみを「相談」しますが、妻はさすがにあきれ、トゥーリオの弟が連れてきた作家に見初められて、浮気します。それを知ったトゥーリオは急に妻への「愛」に目覚め(写真参照)、今度はいてもたってもいられず、別荘に逃げている妻のもとへ馬車で「疾走」します。そして思い出の別荘で妻と寝ます。ちなみに、この別荘のシーンは、徹頭徹尾、最高です。その夜、妻が、かの作家の子供を身篭っていることを知らされ、トゥーリオは、泣きます。

ここまでが前半で、時季は夏まで。後半は冬へと向かっていき、更に泣く子も黙る展開になっていきます。

俺が一番感動したのは妻で、妊娠する役どころということを差し引いても、異常なくらいにうなされるシーンが多いけど、それがことごとくいとおしい。あと、浮気に出かけるそぶりで夫をやきもきさせる時におもむろにかぶる薄紫のヴェールは、映画史上にのこるインパクトのある衣装ですが、彼女の衣装はパラソルとか含めことごとくドキっとします。それも鬼演出の一環ですが・・。

あと、映画の後半で一瞬、おかしな感じでフェンシングの衣装を着た男が戸口に立ってて驚かされるカットがあるけど、まるで幻覚のような、その一瞬のブニュエルっぽさも、結局は不条理な場面ではなかった。

それにしてもヴィスコンティというひとは、恐らくつまらない冗談とかは絶対に言わない人だろうなあ、と思います。死ぬほど「本気の人」を感じます。貴族はどういうタイミングで部屋の片付けをするか?とかまで、皮膚感覚で知っているという場面も演出できる彼の「貴族性」を差し引いても、かなりの独特な空気があったに違いない。そこは、この映画のトゥーリオと重なる。