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陸軍中野学校(1966年大映)増村保造

「親を捨て、戸籍を消し、今また最愛の女を毒殺する。」それが陸軍中野学校。

市川雷蔵がはじめて現代劇に出たヒット作。シリーズ化もされた。シネマスコープ。黒白。
1966年。「清作の妻」と「赤い天使」の間。増村保造がもっともいい映画を撮っていたころである。

雷蔵はこの映画の翌年、『ある殺し屋』(森一生)でこの映画とよく似た感じのクールな殺し屋を演じている。そっちはカラー映画。


陸軍中野学校はスパイ育成学校である。
恋人と結婚の約束もしている「帝大出」の幹部候補軍人の次郎(市川雷蔵)もメンバーとして選ばれる。入学は突然言い渡され、朝出かけた家に連絡もできず、ぷっつりと消息を途絶えるしかない。軍服を脱ぎ、背広を着て、他人になりすまして生きる。すべてはお国のために、エリートでも結婚も出世もあきらめ、将来を捨てなければならない。

前半はこの特殊な任務になじむまで、学校の実技訓練や学生間でのトラブルがあったりで、それはそれで面白い。面倒なやつをみんなで自殺させたりする。

後半はいよいよ団結した中野学校が外部との軋轢に直面する。

ひとつは軍部内でのの予算確保のために諜報機関としての結果を出さなければならないこと。
もうひとつは、そう、ぷっつりと消息を途絶えたままなんだから、恋人の小川真由美が探しているのである。

まず結果を出すために、卒業試験を兼ねて参謀本部が必要としていた暗号のコード表を英国領事館から盗む。実習で学んだ成果を出して相手に気づかれることなく成功するが、直後にイギリスは暗号を変えてしまう。自分たちのミスではないと考えた雷蔵がどこで情報が漏れたのか調査をしてゆくと、コード表を渡した参謀本部で小川真由美がタイピストとして働いているのを見つけてしまう。

ここは経緯は省くけど、知らないうちに恋人が逆スパイになってた、という設定なんだけど、この設定、意外と強引でもなく自然な流れになっている。
そしてこのあたりから「今また最愛の女を毒殺する。」という方向に向かい、映画はおもしろくなるのだった。


シネマスコープの増村保造はやっぱり人物の顔の配置が異様で、あきらかに無理があるんだけど、まあいつもの感じなんだけど、かっこいい。

シネマスコープの広い画面の9割をつぶして1割を目立たせるところとか、計算ずくで完全にマスムラである。

小川真由美が生き別れる前の晩に見せる女の未練とか、行方の知れない雷蔵を探して相談するときにモゾモゾしてちょっとおかしいところとか、細かいところにもマスムラ演出を感じる。ただし、ジャンル物ってこともあって、そういう演出よりも状況説明やストーリー運びに重きを置いた感はある。

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「次郎さん、生きてたの?」  (小川真由美)