« 映画は絵による音楽である | メイン | 恋ごころ('01)ジャック・リヴェット »

女系家族('63大映)三隅研次

nyokei.jpg
「皮肉なことでおます.」(若尾文子)

大阪の裕福な商家の主人の臨終場面ではじまる。葬式、遺産相続という流れになって、一家の三人娘のみならず大番頭・叔母といった関係者一同がそれぞれの思惑をもって相続に介入してきて、もめる。

女の言い争いってのは、それぞれ自分が特別扱いされたいという本音を抱きつつ、そのくせ口では「平等」(「ずるい」)を主張するので、かみあうわけもない議論が繰り広げられるものなのですが、そんな女の言い争いを遺産相続と混ぜ合わせて描く。大阪の金持ち&姉妹ということで『細雪』を思い出しますが、こっちは女系ってことよりも相続が本題です。

長女・京マチ子、妾・若尾文子、大番頭・中村鴈治郎、若様・田宮二郎といった大映のスターたちを、プロデューサー・永田雅一、脚本・依田義賢、撮影・宮川一夫、そして監督・三隅研次といった恐ろしく豪華なスタッフが支え、おそらくは特別に大作というわけでもないこの映画を作る、その安定感。見れば当時この監督は年に4本のペースで作品を出している。どんなサイクルで現場は回っていたのだろう。

『皮肉なことでおます』とは、主の隠れた妾であった若尾文子が二度目の本宅伺いの際に言い放つ言葉です。「本宅伺い」という妾が本家に挨拶にいく風習があるってのもすごいけど、一度目の本宅伺いで、三人姉妹の叔母に温泉芸者という出身を揶揄された際の若尾文子のクローズ・アップ。そこで映画のグルーヴが始まったなあ。

三隅研次、Wkikipediaによると「京都の芸妓の母親との間に妾腹の子として生まれる。」って、監督本人が芸者である妾の息子だったとは。