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帝国オーケストラ('08)エンリケ・サンチェス=ランチ

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冒頭に1942年のヒトラーの誕生記念コンサートってのがあるんだけど、演説するゲッペルスの横で日本人がけっこう目立ってて、そいつが今そのへんにいるなおっさんみたいな奴で、なんかおかしかった。フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュが、ゲッペルスはじめとするナチの面々の前で指揮をする姿も鮮明な映像で見れる(どっちも見た目がすごいけど特にクナッパーツブッシュは異様)。

ドイツにおける戦後の「犯人探し」は、ナチの党員だったかどうかというわかりやすい基準があるために日本よりも尾を引いていて、それは「誰も自分が党員だったことは口にすることはない」というものらしい。

この映画はベルリン・フィルの楽団員の証言を交えて「ナチの楽団」の汚名を挽回するという趣旨はあります。楽団員の自己弁護を待たずとも彼らのほとんどは政治的な人間ではなく、巻き込まれただけだと言うことは理解できるんだけど、そこは何度でも念を押しておきたいみたい。まあちょっと気まずいです。

ちょっと怪しい(党員候補者だった)とされる楽団員なんかは子供が必死に党員ではなかったと否定するので、そのあたりに今も切実な問題なんだということが垣間見られる。気まずい気まずい。

彼らの証言を通して知ることができる、特にドイツの情勢が悪化してからの時間経過はかなり興味深いものがあって、楽団員は兵役を免除されていてベルリン陥落の直前まで公演をしていたというのだから、特権的に恵まれた立場だったらしい。

インタビューに答える楽団員は、自分だけがそんな立場で負傷兵の前で公演したときの後ろめたさを口にしている。あとユダヤ系の楽団員は早々にアメリカに亡命している。やっぱりここまで音楽の才能が傑出している人たちだけに、そこらへんは恵まれてますな。

フルトヴェングラーは音楽性のすごさはみなが指摘するけど、一人あまりにも超然としていて政治的な立場がよくわからない。けっこう楽団員をかばっていたらしいというのは何人かが言っているけど、何でベルリン陥落の直前にオーケストラを離れたのかとか、戦後の非ナチ化裁判の詳しい説明はなかった。

最後に、ソ連兵がベルリンに来たとき、恐怖のあまり自殺とか無理心中とかしている楽団員がいるんだけど、結局ソ連兵に殺されたメンバーはいなくて、最後の最後で死んだのは彼らだけなのです。・・侵略されてもうだめだと思っても、自殺だけはしないようにしようと思った。