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UNLOVED ('01)万田邦敏

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シモカワ君、さっきの面接の話はウソだよ!」(中村トオル)

接吻の万田監督の長編処女作。決して忘れてはいけない強力なシーン、最高なシーンがいっぱいあった。接吻とストーリーの構造は似ている。一貫した主張を持ち、決してブレない女と彼女に「選ばれた」男との関係があり、一方で彼女に惹かれつつも拒否され続ける男がいる、という3人の話。

あとは最後に「活劇」が用意されているところも接吻と同じ。ここの「活劇」は「女が座る」とか「手を握る」とかだけど。

どちらの映画でもメインの三人は有名な俳優が演じている。で、接吻を見てしまったからには当然、鍵を握るのは両方に出ている中村トオル。実は中村トオルはかなり脚本を読み込んでいて、この映画の打ち合わせのときに監督から説明を受け、最後に「何か質問ありますか?」という趣旨のことを聞かれ、「なにもありません!」と即答したとか。あの調子で言ったのだろうか。

そして森口瑶子演じる「影山光子」。彼女が当然、話を引っ掻き回す役で、接吻で小池栄子演じる「遠藤京子」よりも常軌を逸してはいないぶん、その主張にリアリティがある。その主張とは、要約すると、他人と自分を比べるな、分相応に生きよ、ということです。いるべき場所にいて付き合うべき相手と付き合え、とも言います。まるで老子の教えですね。

最後の口論、ブレそうになる松岡俊介の主張を、納得させながら全部つぶしていく女の言葉(「そんなこと言ってない」「2人でいる意味なんてないじゃない」「好きよ」などなど)。これは傾聴の姿勢で聞きました。が、話はそんなに単純でもなく、その彼女がなぜにUNLOVED?というところに向かって、映画は面白く進んでいきます。

恋愛とか価値観の相違とか、人間関係の話をとことん理詰めでぶつかり合って、しかもそれを会話で説明させまくるというのは、フランスやイタリアのヨーロッパのラテン系の映画のにおいがします。淡白さとは無縁な人物の造形に増村保造、編集のテンポや強烈なショットがポーンと入ってくるところとかには北野武のにおいもします。

ところで画面は全体的にぼんやりしててそこがちょっと惜しいけど、あの全体的に黒がつぶれてる感じは、中村トオルの顔がそういう顔だから、なかなか生きている。