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飾窓の女('44)フリッツ・ラング

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人生ベストの本のひとつといえる、淀川・蓮実・山田氏の鼎談『映画千夜一夜』で印象的だったこの映画を、ついに見た。こんなにハラハラさせられる映画だとは思わなかった。

飾り窓の女は、'20年代からすでに巨匠だったドイツ人監督フリッツ・ラングが、ナチスに追われてアメリカに渡った後、'44年にハリウッドで撮ったいわゆるフィルム・ノワールで、そのサスペンスはヒッチコックに遜色ない怖さ。主演女優のジョーン・ベネットの美しさはもはや伝説。上の写真の左がベネット。顔はこの写真で受ける印象よりも、もうちょっとかわいらしい感じで、男をたぶらかすというようなえげつない感じはありません。

ところでフリッツ・ラングは怖い。が、この映画が怖いのは主演のエドワード・G・ロビンソンがあまりにみすぼらしいからでもある。彼はほんと見ていられない。みじめすぎてハラハラする。そこを気を取り直して見る。これ、戦時中の映画でして、'44年といえばハリウッド全盛期が終わろうとする時期でもあり、B級ということもあるので華やかさはほとんどない。当時の車は厚ぼったくて、セットの街も殺風景で、見ていて気が滅入る。そんな中でかなり場違いな感じで過剰な華やかさを発しているのがジョーン・ベネット。彼女の装いはもはや常軌を逸していますが、そこがこの映画最大の見所ではある。まるで夢のような女じゃないか、ということは見終わってから思う。

みじめなロビンソンがのこのこ着いてゆくジョーン・ベネットの家の前にある時計がさりげなくサスペンスを盛り上げている。あのあたりの時間が迫っているということで無駄にハラハラさせるのがヒッチコック言うところのマクガフィンでしょう。映画の冒頭の授業のシーンも実はテーマ上からして重要で、更に言えばあのブラインドの影の感じはまさに暗黒街の弾痕の有名なあれを思い出させる感じで、そこはフリッツ・ラングっぽさ。