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麦の穂をゆらす風('06)ケン・ローチ

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やさしくキスをして('04)を見てちょっとした宿題としてレビューをかいたので、ケン・ローチについてもう一作品見ておこうと思い、最近の代表作ということでカンヌのパルムドールをとったこの作品を見た。ケン・ローチの名前は'96年にケス('69)ではじめて知った。だがケスはそのまま見ずに今まで来ており、なんとなくケン・ローチといえばケスのチラシで印象深い、緑色のイメージがあった。

緑色?緑色といえばアイルランドである。そしてケン・ローチといえば社会派、ということになっているらしいので、社会派が撮るアイルランドといえば当然イギリスとの闘争(イギリスからの搾取)の歴史であり、重いテーマに決まっているのであった。実際みると、さすが緑色だなあってのは意識の端にはあるが(ところで以下ネタバレあり)、とにかくそれどころではない。見ている途中で食事のため中断したんだけど、再開するときにこの世界に戻るのが気が重かった。とにかく、なんかもっと怖いことがおきるだろう、という感じがして一切油断できない。「一線を越えた」主人公にふさわしい最後も予測はできるものの、ポイントはそれがどうやってくるのかわからないということ。女子供は見ないほうがいいと思います。

実は、ケン・ローチにしては例外的に「社会派性」が薄いと思われるやさしくキスをしてと比べても、この作品との間にテーマの構造で似ているところがある。それは、一番信頼すべき人がガラっと敵になるかもしれない可能性があるという現実だろう。国家間の対立や宗教も、確かにひとを理不尽に対立させるけど、それをもとにちょっとずらして、個人的なレベルでの対立に怖いドラマを作る。世界は人の想像を超えるという程度には複雑で、ささいなことをきっかけに、思いつきもしなかった現実が表出します。

あとは、カトリックの神父の扱いが辛辣なのも共通しているなあ。優れた映画作家は、たいてい宗教的な因襲にたいしてシニカルだな。シネードはほんとにかわいそう。あのラストとか。そこで終わるか!でもそこから先はなにもないかと納得するけど。デミアンの兄のテディ・オドノバンが最高にかっこいい男からダメになるっぷりとかもいいなあ。あいつ誰かに似てるよ。