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サクリファイス('86スウェーデン・仏)アンドレイ・タルコフスキー

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はじめに言葉ありき。どうしてなの、パパ?」(Tommy Kjellqvist: 息子役)

タルコフスキーがスウェーデンで撮影した遺作。息子に「確信と希望を持って」捧げられている。

核戦争後の荒廃をイメージした屋外のシーンとして冷たく硬質な画面があった。これは90年代以降スピルバーグ作品で見られるヤヌス・カミンスキーを思い出させる画面で、タルコフスキー映画の「将来性」を強く感じた。実際、あのヨーロッパ的なフィルム感覚は今日に至って観客動員力が強いらしくて、映画館は満員だった。

この映画が撮られた年にタルコフスキーは54歳で亡くなっている。遺作の題名が『サクリファイス』という映画作家も相当にすごいと思う。当然、自身の死の予感は色濃く反映されている。

ということで、この映画はタルコフスキーの芸術作品として堪能させてもらったので下手に突っ込みを入れたくは無い。難解だが、難解なものを難解なままで特に意味を調べたりをする気を起こさせない映画でもあるからだ。マタイ受難曲、レオナルド・ダ・ヴィンチの「東方三賢者の礼拝」(未完成で有名な大作)をモチーフにしていて、どちらも決定的な印象を与えてくれる。

この映画を最も強力にバックアップしているのは撮影と美術で、撮影監督スヴィン・ニクヴィスト、美術監督アンナ・アスプというイングマール・ベルイマンのスタッフがそれぞれ担当している。

特に撮影、室内のシーンが多くて話の内容は難解だけど、光の具合をみているだけで楽しい。本当に息を呑むとはこのことだと思う。

そしてあの家、および室内装飾も記憶に残る美術で、もちろんラストの家が燃えるロングショット抜きにこの映画は語れない。あのシーンは、燃えてる家を移しながら演技してるので、これもし失敗でもしたら撮り直しきかないだろ、と心配になるが、実は一回フィルム交換のタイミングに家が崩れ落ちて失敗してて、撮り直してるとのこと。