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昼顔 ('67仏)ルイス・ブニュエル

ルイス・ブニュエルがカトリーヌ・ドゥヌーヴを通して独自の心理描写を描いた傑作。妄想ではじまり、妄想で終わる映画。いつもユラユラと動いているキャメラが人形のようなカトリーヌ・ドゥヌーヴのご機嫌を伺うかのように、見たことも無い異様な画面を作ってゆく。ドゥヌーヴ、上映開始5分で吊るし上げら鞭打たれます。更にはその時点で既に足フェチ描写も全開、という具合で、しまいには顔に泥とかを投げつけます。

とにかく出てくる人ほとんどが変態で、ドゥヌーヴをちょっといじめてみるときのマダム・アナイスの目つきとか、それを待ってたかのようなドゥヌーヴとか。やりたい放題だが、ブニュエルがすごいのは妄想シーン以外の場面で、普通の場面なはずなのに際立って奇異さが見えるところでもある。友人たちと山荘で語らっても、香水の瓶を落としても、なにかが常におかしい。それが間断なく伝わってくる。

ストーリーは若妻の性欲とその抑圧からくる夢の世界と、それを満たそうとして現実世界で娼婦になることで巻き込まれる冒険と悲劇。ドゥヌーヴ演じるセヴリーヌは清楚な女性で、夫は金持ちでやさしい医者。彼女は不感症で、夫とベッドを共にもできないが夢を見る癖があり、その内容はいつもマゾヒスティックなものだった。

友人が娼婦としての顔を持つことを知った彼女は、勇気を出して娼館で働き始めるようになる。そこで彼女はいろいろな冒険をして、やがて夫を巻き込むトラブルに見舞われてゆく。『昼顔』とは、夫がいない昼間のみ娼婦として働くことができる彼女についた源氏名。

カトリーヌ・ドゥヌーヴ、白すぎる。特に病院で夫と会うシーンと夫と旅行にいったときの海のシーンでの黒い帽子、時にはおおきなサングラスをしていると、その白さが異様に見える。ブロンドの髪もなにやら偽者のような奇抜な色をしている。それをまとめあげたときのうねり具合もカタツムリの殻みたいでなかなかすごい。

老けて見えたがこのとき24才。当時ポランスキーの『反発』にも出ていて病んだ美女を演じているが、この手の映画作家を触発するものが彼女にあるのだろう。ミシェル・ピコリに「女学生風だな」とからかわれるミニスカート姿も異様でいい。実際、映画のなかでも散々言及されるけど、イヴサンローランが担当した衣装が次から次へと本当に素晴らしい。

何の意味もない唐突なシーンの挿入が夢以外にもいくつかある。こういうことやって失敗しないってのは本当にどうかしていると思うくらいの力わざを感じる。冒頭とラストの馬車の鈴がシャンシャンシャンシャン鳴っていたり、東洋人の客が持っている鈴の音を響かせたり、多分あれにも意味はないのか。堕落した人物たちを表現しようと、娼館でマゾヒストの客が出てくるシーンがあるが、逆にその場面のほうがつまらなく見える。

売春宿に行くときにためらいを足だけで見せるところとか、じゅうたんの階段を上る足音とか。こういう演出もすごく自由にやってくれる。さすが筋金入りのシュールレアリストのルイス・ブニュエルである。取り急ぎ、次は『哀しみのトリスターナ』を見よう。

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あそこまで堕落するなんて。おぞましいわ。」(カトリーヌ・ドゥヌーヴ)