マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶('06伊)マリオ・カナーレ
マルチェロ・マストロヤンニが特に好きだったことはない。ただ『8 1/2』でフェリーニの分身である「グイド」を演じたかっこよさの記憶が際立っている。あの白黒画面で飄々と、しかし苦悩する姿は、デビッド・ボウイよりも二枚目だった。あれほどスマートじゃない役も多いのはしっていたけど、若い頃はむしろ庶民派のテレビ向け役者だったとわかった。
この映画、残念ながらそういうような情報がいろいろわかるというものではなくて、フィリップ・ノワレ、アヌーク・エーメ、クラウディア・カルディナーレといった面々がそれなりに老人になったなあ、ということがわかるってことと、マストロヤンニはやっぱりつかみ所ない人だなあ、という印象しか持てない。ただ、怠惰・不精で有名だったというのは意外。まあ160本も映画出てるし、イメージ先行だろうとは思う。あと電話魔というのは誰もが口にしていた。
娘キアラ(オリヴェイラの名作『クレーヴの奥方』('99)で主演している女優)の母親であるカトリーヌ・ドヌーヴについてさえほとんど触れないなど、関係者のインタビューと役者キャリアの情報以外、ほとんど周辺情報が出てこない。だから私生活でなにやってたかわからない。これは母国イタリアでは当たり前すぎる情報は入れてないからなんだろうか?そんなこともあってドキュメンタリーとしては盛り上がらない映画だった。
ただ、ソフィア・ローレンを見直そう、とかクラウディア・カルディナーレも一本ぐらい見直そう、とかフェリーニは別格だなあとかマルコ・ベロッキオ初めて見たよ、とか、感想もそこそこあった。ソフィア・ローレンは本当にいいなあ。
あまり書くこともないので「グイド」について個人的な体験の話をすると、俺はイタリア映画の名作の数々を生み、あの増村保造も留学していたローマのチネチッタ撮影所に用も無く行ったことがあります。
ローマ近郊のチネチッタまで地下鉄に乗ってたどりつき、まあ門ぐらい見て帰るか、と歩道を歩いていたら、男の子が一人ではしゃいでてお母さんに怒られてて、その子が俺を追い抜いたときに後ろからお母さんが「グイード!」と呼びかける声がして、『8 1/2』で少年が怒られてる感じと同じで、ああ、なんか来てよかったなあ、と思ったのだった。
「とにかく靴には目がありませんでした。」(キアラ・マストロヤンニ)