« 昼顔 ('67仏)ルイス・ブニュエル | メイン | スパイ・ゲーム('01米)トニー・スコット »

インランド・エンパイア('06米)デビッド・リンチ

inland01.JPG
ボコ!って力の限り蹴り上げたら、そいつの金玉はゆっくりと脳みその中へと逃げ込んで行った。』(ローラ・ダーン)

そもそも「インランド・エンパイア」とはなんなのか。リンチはロサンゼルスの地名からこの名前をとったという。理由は「インランドという単語もエンパイアという単語もどちらも好きだから」。本当かどうかは知らない。「インランド・エンパイア」という言葉に子供の頃の記憶があるという話もある。

ほとんど自主映画ということで、まとまった台本がなく、毎回その断片を書き下ろして俳優に渡して演じてもらっていたという。SONY製デジタル・ビデオの撮影で、俳優の顔が近すぎてピンボケしたりして、意図的に雑な画面のところもある。こういう部分は先日見たばかりの低予算映画『ラザロ』を思い出した(『ラザロ』については追って書きます)。

リンチがこの映画について発表しているコメントは、「トラブルに見舞われた女の話で、ミステリーである、ということしか言いたくない。」とのことだが、映画のテーマも含めて、それなりのストーリーがないというはずはない。シナリオが完成していなかったというのは実は嘘もあって、それぞれのパートのシナリオはある程度できていて、そのつながりができていなかっただけ、という話もある。

それらの話というのは、女優が不吉な映画の役をゲットする前作の『マルホランド・ドライブ』に続いてハリウッドのバックグラウンドものの話、東欧の女たちをめぐる怪しい話、ウサギの被り物をした家族の話で、どれが現実でどれが虚構だかわからないなりにも、少しずつリンクはする。問題は、それらが「リンクしている」ということはかろうじてわかるものの、それがどうしたの?ってことは説明してくれないってことで、実はそれが「問題」なのかどうかは不明。

この映画、ある部分はわかりやすくて、例えば独特の雑音で恐怖感をあおったり、のどかな鳥の声を鳴らしたり、シーンごとに効果音が絶え間なく流れるところは、とても説明的。また、オープニングのいくつかのカットを除いて、老婆が訪ねて出てくるあたりからローラ・ダーンがベッドで奇妙なことを言い始めるまでくらいは、あ、これテーマは浮気の怖さ、じゃないの?という感じでわかりやすく展開していく。

が、ローラ・ダーン演じるニッキーがベッドで車を停めてスーパーに行ったのなんのとおかしなことを口走って、実際にそのスーパーから買い物を持って車のところに来て、暗号めいた文字が描いてあるドアから入ったあたりで、それ以後ニッキーが出くわす数々の出来事については整合性がなくなっててよくわからなくなってゆく。

感想。デビッド・リンチの新作を見たなあという感じ。特にオススメもできない。オススメは無理だろう。「風の谷のナウシカ」の中にあった台詞のように、見るべき人ならもう見に行ってるのである。

ちなみに、ナスターシャ・キンスキーがどこに出てきたかわかんなかった。ソファに座る黄色いドレスの女がそう、とのこと。